長期熟成に求められる魚体の条件
魚が新鮮であること
古い魚は既に魚の損傷が進んでいるため、長期熟成に適しません
長期熟成に望ましい新鮮さに目安はありません
魚体に損傷がないこと
外傷があると、外傷部位から魚体の損傷が進みやすい。打ち身があると、筋肉内の血管が損傷するため十分な血抜きを行なう事が難しくなる。
また筋肉内への水の漏れが生じるため、魚体の損傷が進みやすい
魚の栄養状態が良いこと
「魚の内臓に脂肪が巻いている」など栄養状態の良い魚は長期熟成により旨みが増します。
生け簀などで長期間飼育している魚は栄養状態が良くないため、長期熟成による旨み増量効果は少なくなる
魚を捕獲後に、生け簀で回復させていること
魚が泳ぐためには筋肉を動かす必要があります。筋肉を動かすためには、エネルギー源としてATPという物質が必要です。釣りなどで魚が抵抗すると、元々貯蔵されているATPはすぐに枯渇するため、体内の糖分や脂肪分からATPを合成することによって魚は動き続けることが可能となります。
ATPを合成する副産物として乳酸が蓄積します。魚はさらに無酸素運動をしており、釣り上げに時間がかかるなどした場合には無酸素運動することによって全身に乳酸が蓄積していることが考えられます。
捕獲後に生け簀で回復させることは、「消費したATPの貯蔵が回復する」という理由で長期熟成に良いと考えられます。
なぜなら長期熟成の旨みの源であるイノシン酸はATPから生成されるからです。
一方で、生け簀内ではストレスによりATPが逆に減少するという説も散見されます。
しかし、少なくとも釣り上げた直後と比較した場合、生け簀で回復した後の方が状態が悪くなるということは考えにくいです。
なぜなら、生け簀内で魚が暴れている場合を除いて、無酸素運動ではなく有酸素運動をしているはずです。
そして、有酸素運動することにより乳酸と酸素を利用して再度ATPを産生していると考えられるからです。
残念ながら、現在のところ以下の2点は確認されていません
① ATPがどれぐらいの時間で再度魚体に貯蔵されるか?(魚をどれぐらい休ませれば良いか?)
② 再度貯蔵されたATPが長期熟成の主役と考えられるイノシン酸量に影響を与えるのか(回復で旨みが増すか)?
各地のブランド魚の中には「活け越し」という呼ばれる処理を行ってる場合があります。
これは漁で獲れた魚を一晩~数日生け簀で休ませ、魚体を回復させた後に締め、血抜きの工程を行う事です。
その際に胃の内容物を吐き出させる事で腐敗を遅らせたり、内容物から異臭が出ることを抑えます。
上記の通りATPの貯蔵がどの程度の時間が必要か、という部分は科学的に確認はされてないものの、各地の漁師さん達は体感している経験則に基づき「活け越し」を行なっていると考えられ、魚体の状態によってどれだけの時間生け簀で休ませるかも調整されています。